研究紹介

たたら製鉄におけるナノテクノロジーの結晶学的解明
~伝統技術から未来技術へ~

大庭 卓也,森戸 茂一,Pham, A.H.

山陰に発達した日本独特の製鉄法『たたら』は,良質の鉄,玉鋼(たまはがね)を生み出します。玉鋼を用いて作製された日本刀は,強度が高く,靭性,耐食性に優れています。一般に鋼の性質は微視的構造に大きく左右されます。すなわち,『たたら製鉄』は,島根発の伝統的ナノテクノロジーと考えられます。このような伝統技術に関する基礎的研究は,我々が未来技術の発展を考えるに当たって必要不可欠な知見を与えると考えられます。本研究では,日本美術刀剣保存協会・村下や刀匠の協力を得て,日本刀の様々な鍛錬過程における試料を作製・提供頂き,さらに和鋼博物館と連携して日本刀の現代結晶学的手法での分析と解析を進めています。

最近分かったこと

日本刀の原料である玉鋼は高純度の鉄ですが,鉄に溶け込んでいない介在物が多数存在しています。玉鋼を重ね合わせて鍛造するという工程を繰り返す事によって,介在物がマイクロ~ナノレベルまで微細化します。このとき,介在物の結晶構造が崩れ,ガラス化していきます。また,玉鋼中に残っているTiなどの合金元素もガラス化した介在物に取り込まれる傾向にあります。そのような微細介在物が日本刀の特有の性質に影響を与えています。

図1 玉鋼を用いて作った小刀 図2 小刀の刃部のTEM組織

マルチスケール評価システムの構築

日本刀に限らず,材料研究では原子尺度のミクロな視点からマクロな平均的な視点まで,全体的な視野で観察する必要があります。一般に「マルチスケール」と言われているもので,最近の研究では様々な手法による試料の測定および全体的な解析が求められます。本分野ではマルチスケールでの結晶学的研究のため,表面の凹凸の定量評価が可能な光学顕微鏡から結晶方位解析と組成分析が同時に自動で行える電子顕微鏡まで,様々な装置を導入しています(図3, 4)。また,組織の全体的な特徴を研究するため,複雑な結晶構造も解析したり複数の回折を同時に測定したりすることの出来るX線回折装置も導入しています(図5)。さらに,これらの観察のために必要な試料作製装置も使用可能であり,様々な研究に応えられるようになっています。

図3 走査型電子顕微鏡(SEM) 図4 透過型電子顕微鏡(TEM) 図5 X線回折装置

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