界面でのシリコン原子放出の効果2

酸化中にシリコン原子が界面からシリコン酸化膜中へ放出されるという現象を考慮に入れると、初期増速酸化現象が説明できそうであることが分かりました。では、本当に説明できるのでしょうか?それを確認するには、まず実験によって得られた初期増速酸化現象を説明する酸化時間と酸化膜の関係式(Massoudの経験式)が、この考えで導き出せることを示さなければなりません。

参考: [1] H. Kageshima, K. Shiraishi, and M. Uematsu, Jpn. J. Appl. Phys. 38, L972 (1999).

この式の右辺第二項のない式はDeal-Groveの式で、酸化膜中の酸素の拡散方程式と界面での酸化反応の方程式を組み合わせることで導くことができました。そこで、これを界面でのシリコン原子放出がある場合に拡張してみることにしましょう。

酸素が酸化膜中を拡散して、界面までやってきて、そこで酸化反応を起こすことは、これまでと同じです。これまでと違うのは、界面からのシリコン原子放出があることで、このシリコン原子は界面での酸化反応に応じて放出され、酸化膜中を拡散して界面から酸化膜表面へ向けて拡散していくものと考えられます。

そうすると、酸素(酸化種)の拡散方程式と放出シリコン原子(Si原子)の拡散方程式、界面での酸化反応とシリコン原子放出、そして酸化膜中で出会った酸素と放出シリコン原子の会合反応(酸化反応)を取り入れて、方程式を立てる必要があります。

まず、酸素に関する方程式は次のようになります。

また、放出シリコン原子に関する方程式は次のようになります。

これらの方程式を連立させて解かなければいけないのですが、大変複雑になってしまったので、Deal-Groveの式を導き出した時のように一般の場合に解析的に解くことは困難です。しかし、酸化膜厚が薄い場合を知りたいので、そのような状況に限定すれば近似的に解くことができます。

その結果、酸化膜厚が薄い場合には、初期増速酸化現象における酸化時間と酸化膜厚の関係を示す式(Massoudの経験式)と一致することが分かりました。つまり、界面からのシリコン原子放出を考えることで、確かに実験の初期増速酸化現象を数値的にも厳密に再現できることが分かったのです。

さらに、Massoudの経験式で物理的な起源が不明であった二つの定数KとLの正体も分かりました。まず、Lは酸化膜中を界面から放出されたシリコン原子がどの程度拡散できるかの距離を示す、拡散距離でした。そして、Kは放出されたシリコン原子が酸化膜表面で酸化される速さが、酸化膜中で酸化される速さに比べてどの程度速いのかを示すものでした。

このように、初期増速酸化現象の正体が明らかになったのです。