界面でのシリコン原子放出の効果1

シリコンの酸化中にシリコン酸化膜/シリコン界面からシリコン原子が放出され、シリコン酸化膜中に大量に流出するということは、何を意味しているのでしょうか?少し考えてみると、あの説明がつかなかった初期増速現象を説明できることがわかります。

シリコンの酸化中にシリコン原子が大量に放出されると言うことは、シリコン原子が放出できなければシリコンの酸化を進めることが出来ないと言うことを意味しています。シリコン原子は原子半径が大きいので、シリコン酸化膜が隙間だらけであるとはいえ、シリコン酸化膜の中を動き回ること(拡散すること)は簡単ではないでしょう。また、同じ理由で、シリコン原子がシリコン酸化膜の中に溶け込める量には限りがあるでしょう。さらに、シリコン原子が酸素と反応して酸化されると、体積膨張を起こすので、シリコン酸化膜中で酸化されるのは難しく、ゆっくり反応が起こることでしょう。

これらのことを考え合わせると、次のように結論できます。まず、酸化が始まった直後を考えてみましょう。酸化膜は極めて薄く、酸化によって界面から放出されたシリコン原子は、簡単に酸化膜を突き抜けて酸化膜の表面まで到達するでしょう。そこでは容易に体積膨張できるので、シリコン原子はすみやかに酸化されてしまうと考えられます。界面から次々とシリコン原子が放出できるので、酸化はどんどんと進むことでしょう。

それでは、少し時間が経って、酸化膜が少し厚くなってきたらどうでしょうか?酸化によって界面から放出されたシリコン原子は、ゆっくりと界面から酸化膜表面に向けて動いていきます。おまけに、体積膨張が難しいので、シリコン原子は酸化もなかなかされません。このため、シリコン酸化膜の界面付近に、放出されたシリコン原子はほとんど漂い留まっていることになります。酸化膜の中に溶け込めるシリコン原子の濃度には上限があるので、新しいシリコン原子はなかなか界面から放出できなくなります。シリコン原子を放出できなければ酸化は進行できないので、酸化の進行はゆっくりになるはずです。

まとめると、最初はどんどん酸化が進むが、少し時間が経つと酸化はゆっくりになってしまいます。見方を変えれば、最初だけどんどん酸化が進むと言うことになり、初期増速酸化現象と一致するのです。

参考: [1] H. Kageshima, K. Shiraishi, and M. Uematsu, Jpn. J. Appl. Phys. 38, L972 (1999).