第一原理計算による検討2

そこでさきほどの計算で得られた原子構造をもう一度よくよく眺めてみます。

どうも、n=3 の構造が窮屈そうであることがわかります。一番上の段の最も左にある酸素原子(赤い丸)は、一番上の段の最も左にあるシリコン原子(白い丸)にとても近いのに、化学結合を作っていません。これはそのすぐ下のシリコン原子が邪魔をしているからです。

そこで、この邪魔なシリコン原子を取り除いてみると、どうなるでしょうか?

参考: [1] H. Kageshima and K. Shiraishi, Phys. Rev. Lett. 81, 5936 (1998).

その後、シリコン原子とシリコン原子の間に酸素原子を挿入していくと、2層のシリコン酸化物が表面に出来ました。しかも、全てのシリコン原子がそれぞれ4つの原子と結合しており、構造を不安定とする未結合手は存在しません。

では、角度∠Si-O-Si はどうなったでしょうか?

ばらつきがありますが、平均はほぼ144°。自然界で最も安定な水晶と同じです。

また、ここで求まったn=6 の時の原子構造は、 自然界に存在するシリコン酸化物の結晶のβ水晶と同じ原子構造ですが、体積を比較すると7% しかβ水晶より大きくありません。7% 大きくなってしまったのはシリコン原子を取り除きすぎたからで、シリコン原子を取り除く割合を減らせば、歪みを0 にすることが可能です。

また、シリコン原子を取り除いた場合と取り除かなかった場合で全エネルギーの比較をすると、n=4 (O被覆率 2ML)以降では取り除いた場合の方がエネルギー的にも有利であることがわかります(取り除いたシリコン原子はシリコン結晶に吸収されると仮定した場合)。これは、シリコン原子が界面から自発的に放出されることを意味しています。

つまり、シリコンの酸化過程は、(1) シリコン原子とシリコン原子の間に酸素原子が割って入る過程と、(2) シリコン原子が放出される過程(シリコン原子が界面から取り除かれる過程)、の二つの過程で成り立っていると考えられることがわかります。

そして、シリコン原子の放出量は3個のシリコン原子が酸化されると1個弱放出される計算になり、極めて大量であることもわかります。

では、このように大量に放出されたシリコン原子は、どこへ行くのでしょうか?