簡単な理論の実験との比較

簡単な理論 Deal-Groveの式に基づいて、酸化膜厚と酸化時間の関係に関する式の持つ意味を考えてみましょう。

と書けます。つまり、酸化膜厚X は酸化時間t に比例して増加します。このときの比例係数B/A は、

となり、界面での酸化反応係数 k が現れますが、酸化膜中の酸素拡散係数 DO は現れません。これは、酸化膜中を酸素があっという間に拡散して界面に到達してしまうため、界面での酸化反応が酸化膜厚の増加を律速していることを示しています。このため、この状況を「反応律速」と呼びます。

一方、 酸化時間t が長く、つまり酸化膜厚X が大きい場合、今度は左辺のXの項が無視できまるようになりますので、

酸化時間t が短く、つまり酸化膜厚X が小さい場合、左辺のX2の項は無視できますので、

参考: [1] Deal & Grove, J. Appl. Phys. 36 (1965) 3770.

[2] Han & Helms, J. Electrochem. Soc. 135 (1988) 1824.

と書けます。 酸化膜厚X の2乗が酸化時間t に比例して増加します。このときの係数B は、

であり、拡散係数 D は現れますが、反応係数 k が現れません。これは、界面での反応はあっという間に起こるのですが、酸化膜中の酸素の拡散が遅くて界面における酸素の濃度が低く、界面への酸素の供給が酸化膜厚の増加を律速していることを示しています。このため、この状況を「拡散律速」と呼びます。

この理論は、B/A とB 、t0 をフィッティングパラメータとすることで、酸化温度700℃から1300℃までのシリコン熱酸化の実験結果を、非常に良く説明します。また、シリコン基板の面方位によって酸化膜厚の増加の様子は違ってきますが、これらの違いもB/A を適度に変更することで、説明することが出来ます。さらに、酸素濃度依存性も、CO* を適度に変更することで説明できます。

このことは、この理論をたてるための前提である、酸素が酸化膜中を拡散してシリコンとシリコン酸化膜の界面まで到達しそこで酸化反応が起こる、という考え方が、正しいことを意味します。

実際、界面で酸化反応が起きていることは、Oの同位体を用いた実験[2]により、確認されています。