界面でのシリコン原子放出の効果3

酸化中にシリコン原子が界面からシリコン酸化膜中へ放出されるという現象を考慮に入れると、初期増速酸化現象が説明できることが分かりました。ここではさらに踏み込んで、酸化膜厚が薄い場合以外にも実験結果を再現するのか、実験結果を説明するような物理定数(パラメータ)はどのような数値になるのかを確認してみることにしましょう。

それには、さきほどの連立拡散方程式を数値的に解いてみれば良いのです。計算に必要となる様々な物理定数(パラメータ)は、これまでの様々な実験結果を考慮し、また温度依存性としては物理化学で一般的なボルツマン分布型の温度変化を仮定して、次のように決定します。

参考: [1] M. Uematsu, H. Kageshima, and K. Shiraishi, Jpn. J. Appl. Phys. 39, L899 (2000).

    [2] M. Uematsu, H. Kageshima, and K. Shiraishi, Jpn. J. Appl. Phys. 39, L952 (2000).

    [3] M. Uematsu, H. Kageshima, and K. Shiraishi, Jpn. J. Appl. Phys. 39, L1135 (2000).

こうして数値計算した結果を実験結果と比較すると、800℃から1200℃の酸化温度の範囲で、数十秒から数十万秒の酸化時間の範囲で、実験結果を良く再現します[1]。点線が界面シリコン放出を無視した従来の結果ですが、その実験結果との大きなずれを見ると、初期増速酸化現象が界面シリコン放出を考慮することがいかに重要かがわかります。(シリコン基板の面方位(100)、酸素の圧力1気圧の場合。)

また、酸素の圧力を1気圧から20気圧まで変えた時の実験結果と比較しても、良い一致を見ることができます[2]。

さらに、シリコン基板の面方位を(111)に変えた場合も、界面からのシリコン原子放出率を(100)の場合の40%とするだけで、実験結果ときれいに一致します[3]。

このように界面からのシリコン原子放出を考えることで、様々な条件での実験結果が矛盾無く説明できるようになったのです。