当研究室は物性理論の研究室であり、特に固体中の電子状態に焦点を当てた研究を行っています。 研究のキーワードとして「理論による物質設計」があります。 未発見の新機能性物質を提案することが大きな目標の一つであり、それを達成するために物理現象の深い理解を目指します。 そのため、当研究室は現象の深い理解を試みる理学的な側面と、それを基にして高性能物質を探索する工学的な側面の両方を持ち合わせます。 現在対象としている現象は「超伝導」と「熱電効果」です。 研究内容を知りたい方は、研究内容の節をご覧ください。
当研究室では、計算機(パソコンなど)を使ったコンピュータシミュレーションによって、物理現象の解明を行います。 既に他の研究者が開発したソフトウェアも使用しますが、自分自身でプログラミングを行うこともあります。 輪講では、Pythonというプログラミング言語を用いてプログラムを書く練習をします。 1からプログラムの書き方を学びますので、プログラミング経験がない方も問題ありません。
研究で具体的に取り扱う現象は、現在のところ「超伝導」と「熱電効果」の2つです。 これら2つの現象は全く異なりますが、片方だけを学びたいというよりも、両方とも学んでみたいと考える学生を特に歓迎します。 実際に配属された場合は、2つの現象のどちらかについて研究を行ってもらうことになりますが、輪講では熱電効果と超伝導の両方について、基礎的な内容について学ぶ機会を作ります。 両方の現象について理解が深まると、複数の視点でものごとを見る能力が養えますし、超伝導として議論されている物質が、実は大きな熱電性能を発揮することがわかるなど、新たな発見が起こる可能性があります。 実際、熱電物質として有名なNaxCoO2と呼ばれる物質は、水和物にすることで超伝導になります。 NaxCoO2に関する2つの現象を統一的に理解できるという文献もあり、このような、垣根を超えた統一的なものの見方を身につけられるよう指導を行いたいと考えています。
当研究室は理論の研究室ですが、実験を主とする研究者と密接にコミュニケーションを行っています。 研究目標の一つである「理論による物質設計」を達成するためには、理論で閉じるだけでなく、実際に実験で合成・測定されなければならないからです。 そのためにも実験を主とする研究者と議論を重ねる必要がありますし、実験の状況を理解することも大切です。 理論研究の考え方だけでなく、実験を行う研究者がどのような考え方でものごとを理解しているのかを考えて欲しいと思っています。
最後に、研究を行うにあたり未知の現象に立ち向かう「チャレンジ精神」も重要です。 研究の世界では、誰かが行った内容を真似するだけ、ということはなく、その研究に関しては世界初のものでなければなりません。 新しい現象や物質が発見されたらすぐに研究を行いたいと考えるような、好奇心旺盛で意欲のある学生を歓迎します。 研究室での活動に興味のある方は、島根大学総合理工学部3号館526室にお越しください。メールでも問題ありません。
当研究室では現在以下の現象について精力的に研究を行っています。具体的な研究成果については工事中です。
超伝導とは、物質をある一定温度以下まで冷やすと電気抵抗がなくなる現象で、1911年に発見されました。 超伝導はクーパー対と呼ばれる2つの電子がペアを組むことにより発現し、1950年代に提唱されたBCS理論が微視的理論の基礎となっています。 最初に超伝導体として発見された水銀は、超伝導に転移する温度が約4K(約マイナス269°C)と非常に低い値でしたが、 1980年代に発見された「銅酸化物高温超伝導体」でブレイクスルーが起こり、現在では常圧下で100Kを超えた物質も存在しています。 この銅酸化物高温超伝導体はBCS理論では理解することができないため、「非従来型超伝導体」と呼ばれています。 通常の超伝導体では格子振動(フォノン)を糊(のり)として電子がペアを組みますが、非従来型超伝導では格子振動ではなく電子と電子のクーロン反発力が糊の起源となります。 非従来型超伝導は、電子のペアを作るための糊の違いから、水銀のような転移温度の低い従来型の超伝導よりも高い転移温度を持ちうると考えられています。 2008年には新しい非従来型超伝導体である「鉄系超伝導体」が発見されました。
当研究室では、非従来型超伝導体の超伝導が発現する起源について研究を行っています。 我々の大きな目標は、非従来型超伝導体の超伝導発現機構を理解し、より高い転移温度を持つ超伝導体を理論的に予言することにあります。 そのために、様々な超伝導物質の電子状態の研究を行い、一つ一つの物質の特徴を把握する研究を行います。 現在では主に鉄系超伝導体に焦点を当てており、超伝導転移温度と結晶構造、そして電子状態の関係について様々な計算から考察を行っています。
熱電効果は熱と電気の相互変換現象を表し、ゼーベック効果、ペルチェ効果、トムソン効果の3つを指します。 ゼーベック効果とは、物体の片側を温めるなどして温度差をつけると、その温度差に比例した電圧が生じる現象です。 ペルチェ効果とは、物体に電流を流すとその電流の大きさに比例して吸熱、発熱が生じる現象です。 ゼーベック効果により温度差によって発電ができることから、体温と部屋の温度の温度差でも発電することが可能となります。 温度差発電により動くスマートウォッチも発売されており、ゼーベック効果は省エネルギーの観点から注目を集めています。 また、ペルチェ効果は電流を流すことで物体を冷やすことができるため、静音冷蔵庫(ペルチェ式冷蔵庫)として実用化されています。 熱電効果の各効果は関連性があるのですが、当研究室ではゼーベック効果に対しての理論研究を行っています。
ゼーベック効果にとって重要な要素として、ゼーベック係数、電気伝導率、熱伝導率があります。 ゼーベック係数は電圧と温度差の間の比例係数で、同じ温度差をかけた場合、この係数が大きいほど大きな電圧がかかります。 同じ電圧がかかった状態では、大きな電流が流れるほど大きな電力が得られますので、電流の流れやすさである電気伝導率は性能に大きく関わります。 また、温度差をかけても熱が移動してしまうと温度差が消えてしまうので、温度差をかけつづけやすいよう熱の伝わりやすさを表す熱伝導率が小さい必要があります。 これら3つの要素が絡み合うため、性能を高めることは大変難しい状況になっています。 例えば、ゼーベック係数が大きい場合は電気伝導率が小さくなってしまう、電気伝導率が大きい場合は熱伝導率も大きくなりやすい(ヴィーデマン・フランツ則)、などが存在します。
我々の大きな目標は、ゼーベック係数、電気伝導率、熱伝導率という3つの物理量によって決まる熱電効果の性能指数を、できるだけ最適化するような条件を探索することです。 その最適化条件を理解することができれば、それを利用して新しい高性能物質を提案することが可能となります。 現在は電子状態に着目し、ゼーベック係数、電気伝導率に主眼を置いています。 電子の輸送を理解するために、様々な物質の「エネルギーバンド」を計算し、理想的な電子の状態を探索しています。
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