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バンド理論について

 固体内のミクロな状態は,周期的に並んだ陽イオンの格子とそれを取り巻く電子たちの運動で記述されます.特に,固体の諸物性における電子の役割は大きく,それを強調して電子物性と呼ばれることもあります.固体内の電子は,陽イオンからの引力ポテンシャルや,他の電子からの斥力ポテンシャルを感じながら運動することになるので,固体内の電子状態を調べるためには複雑な多体問題を解かなければならないことになります.

 この多体問題を簡単化する方法として,ある電子に着目して,その電子が感じるポテンシャルを,それ以外の電子の作るポテンシャルを平均化したものと考え,平均化されたポテンシャルの中の一電子の運動を調べるというやり方があります.もちろん,平均化されたポテンシャル自体を電子が作っているので,ポテンシャルと電子の分布を矛盾なく決める必要がありますが(自己無撞着条件),基本的に,一つの電子の運動を考える時は,平均化されたポテンシャルの中の一電子問題を考えればよいことになります.このような近似方法を一体近似と呼びます.

 上記の一体近似の方法に従って,固体における電子状態を精密に調べる理論が構築されていて,バンド理論と呼ばれています.電子の分布から平均化されたポテンシャルを決定し,そのポテンシャル中での電子状態を高い精度で計算した上で,得られる電子状態から電子の分布を求める‥‥という手順を繰り返して,自己矛盾のない(自己無撞着な)電子状態を決定するのです.バンド理論から得られるのは一体の電子状態としてのエネルギーバンドですから,低いエネルギーのバンドから順に↑スピンの電子と↓スピンの電子を占有させていけば,系の基底状態が得られることになります.

 この時,バンド構造がどんなに複雑であっても,バンドにおける,電子の「詰まり具合」から簡単な帰結が得られます.↑スピン電子と↓スピン電子を占有させ終えた時に,そのバンドの上にエネルギーギャップが開いていれば,電子は励起することができませんから,系は絶縁体になります.そして,エネルギーギャップが開いていなければ系は金属的になります.また,単位胞当たりの電子数が奇数個で,バンドが↑スピン電子か↓スピン電子で半分しか詰まっていなければ.系は必ず金属的になります.

 即ち,バンド理論では,バンド構造と単位胞当たりの電子数が決まれば,系が金属的になるか絶縁体となるかが決まります.電子数が偶数個であれば,バンドギャップが開くか開かないかで絶縁体か金属かが決まりますが,電子数が奇数個であれば,バンド構造に関わり無く,系は金属となることに注意して下さい.


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