物理雑記帳 > 強相関電子系って? > ヘンテコルールの椅子取りゲームとMott転移
- ヘンテコルールの椅子取りゲームとMott転移
- ‥‥長々と譬え話をしてきましたが,そろそろ現実の世界に戻りましょう.ヘンテコルールの椅子取りゲームは,下図のように対応させた固体内電子系の強結合モデル(tight-binding model)を表しています.
- このヘンテコルールの椅子取りゲームでは,椅子の数と人数が同じでも,椅子が大きい時と小さい時では,ゲームの進行が続くか終了するか,ゲームの「運命」が変わります.椅子の大きさをだんだんと小さくできるとしたら,ある椅子の大きさの時,二人(アップちゃんとダウン君)が同席する窮屈さに耐えかねて,自由に動き回るのを諦めることになるわけです.窮屈だと感じたら,一瞬だけ同席しても,どちらか一人が隣の椅子に移らなければならないからです.
- 椅子の大きさは,電子のバンド幅の目安.狭い椅子が窮屈なのは,狭いバンドでは相対的に電子間斥力の効果が強いことに対応しています.バンド幅とのより正確な対応づけを考えるならば,隣の椅子への「移動し易さ」などを考えるべきですが,そこまでの対応づけはしていません.「アップちゃん同士やダウン君同士は同じ椅子に座れない」というのは,もちろん、Pauliの排他律に対応する表現です.
- このような対応付けを考えると,イオン当たり一つの電子がある場合,バンド幅が広く,電子間斥力の効果が相対的に弱い時には,電子は難なく動き回ることができることがわかります.つまり金属状態です.これは,バンド理論において,単位胞当たり奇数個の電子が入っている時に,バンドが完全に詰まらずに金属状態となることに対応します.バンド理論は一体近似の理論ですから,この帰結は常に成り立つことになっています(バンド理論の簡単な説明についてはこちらをご覧下さい).
- しかし,椅子取りゲームの譬え話で見たとおり,相対的な電子間斥力の効果が強くなってくると,たとえイオン当たりの電子数が一つでも(むしろ,一つであるが故に),電子は運動できなくなり,系は絶縁体となるのです.
- このように,バンド理論からは金属的になると予想されるにもかかわらず,電子間斥力の効果で絶縁体となっている系を,Mott絶縁体と呼んでいます.つまり,Mott絶縁体は(電子間斥力についての)一体近似では記述できず,本質的に電子間斥力の効果(相関効果)によって実現する絶縁体なのです.
- そして,椅子取りゲームの譬えの中で,椅子の大きさををだんだんと小さくできるとした時に,ある椅子の大きさでゲームの「運命」が変わるということに対応して,電子間斥力の効果が次第に大きくなった時に,ある電子間斥力の大きさで,金属からMott絶縁体への状態の「転移」があるわけですが,この転移のことを(狭義の)Mott転移と呼んでいます.