研究概要

(各研究内容に対応する論文のリストはこちら

(1) 動的平均場理論(DMFT)を用いた強相関電子系の研究
(1-1) 重い電子系における磁性イオン希釈実験を念頭におき、 磁性イオンと非磁性イオンがランダムに分布した系に対応した モデルを解析した。コヒーレント・ポテンシャル近似(CPA)と DMFTとを合わせたスキームを利用して、電気抵抗の温度変化 などの磁性イオン濃度依存性を調べた。高濃度領域での重い電子系に 対応する状態から、低濃度領域での一不純物近藤系に対応する状態 までを系統的に扱うことに成功した。 論文13, 14
(1-2) 局所的Coulomb斥力Uが働くサイト(不純物サイト) がランダムに分布するHubbardモデルの金属状態を調べた。 DMFTの枠組の中での二次摂動計算(IPT)を用いて、状態密度や 比熱などの物理量を計算した。 不純物サイトの濃度xが高く、かつ、低エネルギー領域では、系の性質は、 有効Coulomb斥力Uxを持つ一様なHubbardモデルで よく記述されるが、低濃度領域では、系は一不純物近藤系の集合体と して振る舞う。 論文10
(1-3) 遷移金属化合物を念頭に置き、2バンドHubbardモデルを用い て、ドーピングに伴う状態密度の変化を調べた。DMFTの枠組の中で 量子モンテカルロ法を用いた計算を行い、 得られた虚時間Green関数から状態密度 を求めるために、最大エントロピー法を用いた。絶縁相に対してド ーピングを行なうと、状態密度の 下部ハバードバンド強度が小さくなる一方で、 局所一重項ピークから分かれ出るようにピークが成長し、遍歴性を 担う状態が形成されることがわかった。 論文 5,6
(2) 自己エネルギーに局所近似を用いた自己無撞着二次摂動理論(SCSOPT)による強相関電子系の研究
(2-1) Ce系充填スクッテルダイト化合物、特に、CeRu4Sb12やCeOs4Sb12を念頭においたモデルにおける光学伝導度スペクトルを計算した。上記化合物を対象にしたバンド計算によるバンド分散を再現するようなtight-bindingモデルを構成し、バンド対角的な電子間相互作用を導入して、その電子相関効果をSCSOPTを用いて取り扱った。得られた光学伝導度スペクトルは、電子相関を考慮しない一体近似(Hartree-Fock近似)では得られない特異な温度変化を示し、それが 実験で得られているスペクトルの温度変化を定性的に再現することが示された。 論文 16
(2-2) 重い電子系の主な理論モデルである周期的Andersonモデル (PAM)と近藤格子モデル(KLM)において、ある条件を満たす時に実現する 絶縁体状態(近藤絶縁体に対応すると考えられる)、及び、 その絶縁体状態にキャリアを導入した場合の金属状態について、 両モデルによる記述の相違点を調べるため、Green関数の自己エネルギーに 対して局所近似を適用し、SCSOPTを用いて、 PAMの動的相関関数及び熱力学量を計算した。 低エネルギー励起を見る限り、KLMとの差異はなく、 PAMによるフェルミ液体としての記述が適当であることがわかった。 論文12
(2-3) 近藤半導体を念頭におき、half fillingの場合の周期的Anderson モデルを扱った。Green関数の自己エネルギーに局所近似を用いて SCSOPTにより、状態密度や局所動的スピン及び電荷感受率、 光学伝導度などを 計算した。状態密度は、絶対零度ではFermi面上にギャッ プを持つが、昇温と共にFermi面上に有限の状態密度が生じる。 論文 2
 (3) 密度行列繰り込み群(DMRG)法を用いた1次元強相関系の研究
(3-1) 1次元近藤格子モデルでの有限温度での動的相関関数の振舞いを、 有限温度DMRG法及び最大エントロピー法を用いて調べた。 局所状態密度と動的局所電荷相関関数は基底状態でギャップを持っている が、昇温とともに消失する。構造に変化の現れる温度は、系のスピン励起 ギャップΔsに対応していることがわかり、この系の最小 のエネルギースケールがΔsに支配されていることがわかった。 論文 9
(3-2) 1次元的な銅酸化物系(Sr14Cu24O41 のSr-Ca置換系)における1次元鎖を念頭に置き、最近接ホッピングtと 次近接交換相互作用J'を持つモデルのquarter fillingでの電子 状態を研究した。計算には基底状態DMRG法を用いた。 t/J'≒0.18に、 1次元反強磁性Heisenbergスピン系が融解するという、 電荷励起ギャップの消失を伴う量子相転移があることがわかった。 論文 7, 8
 (4) Mn酸化物における特異な電荷軌道秩序の起源についての研究
(4-1) いくつかのMn酸化物において、あるキャリア濃度で生じる電荷と軌道の整列の 起源を探るため、同一格子点上だけでなく次近接格子点間にもCoulomb相互 作用が働く、二重縮退軌道を持つHubbardモデルを、Hartree-Fock近似を 用いて調べた。その結果、電子格子相互作用を考慮しなくても、実験で報告 されている電荷・軌道整列が生じ得ることが示された。 論文 11